鈍色望遠鏡

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『乃木坂春香の秘密』分析

乃木坂春香の秘密 (電撃文庫)乃木坂春香の秘密 (電撃文庫)
(2004/10)
五十嵐 雄策

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小説『乃木坂春香の秘密』第一巻を分析してみます。
分析についての説明はこちらです。
ネタバレ注意。


概要
・主人公の「綾瀬裕人」がクラスメイトでお嬢様の「乃木坂春香」の"秘密"を知ってしまう話。

文章技巧
・一人称単視点。
・地の文は裕人の「語り」として書かれている。
・「語り」はやや軽いトーンで書かれている。
・描写がコミカル。(リアリティよりもその場の面白さを追求している)

登場人物
○綾瀬裕人(視点キャラ、高校二年生、度胸がある)
○乃木坂春香(裕人のクラスメイト、容姿端麗才色兼備のお嬢様、隠れアキバ系、天然)
○乃木坂美夏(春香の妹、中学二年生、春香と正反対の性格)
○桜坂葉月(春香の家のメイド長、クール系、可愛いもの好き)
○朝倉信長(裕人の幼馴染、学園のマスコット的存在、情報通、アキバ系マスター)
○上代由香里(裕人たちのクラスの副担任、音楽教師、ルコの友人、ズボラ)
○綾瀬ルコ(裕人の姉、一流企業の社長秘書、家では横暴)
○「三バカ」(永井、竹浪、小川の三人で一人分な感じ、変態)
○佐々岡(春香に告白して玉砕、裕人に対し険悪、バスケ部キャプテン、プチ整形、エセフェミニスト)
●「乃木坂春香ファンクラブのメンバーたち」(春香のファン、裕人に対し険悪)
●その他(クラス担任、学園の生徒たち、喫茶店のメイド、春香の中学生時代の同級生など)
以上、9+2名が登場する。
また、
●「裕人の両親」(仕事のせいで滅多に家に帰らない)
●「春香の両親と祖父」(ブルジョア階級)
の存在が示唆されている。

登場人物の役割
1.『主人公』→綾瀬裕人
2.『贈与者』→乃木坂春香、乃木坂美夏、桜坂葉月、朝倉信長、「三バカ」
3.『境界守』→乃木坂春香、桜坂葉月
4.『使者』→乃木坂春香、乃木坂美夏、上代由香里、綾瀬ルコ
5.『変化するもの』→乃木坂美夏
6.『影』→佐々岡、(春香ファンクラブメンバー)
7.『トリックスター』→朝倉信長
α.『移行対象』→なし
β.『恋愛対象』→乃木坂春香
γ.『真の目的』→乃木坂春香との恋愛成就

『主人公』としての裕人は、「春香と共に様々な経験をして成長する存在」。
『贈与者』としての春香は、「裕人に経験のきっかけを与える存在」。美夏と葉月は、「裕人と春香が親密になるための環境を与える存在」。信長と「三バカ」は、「裕人に話題を提供する存在」
『境界守』としての春香は、「オタク趣味の象徴」(春香自身よりも、春香の行く場所や持ち物にその特性が現れている。例としては「秋葉原」や「萌え系雑誌」など)。葉月は「ブルジョア階級の象徴」(春香の住む「家」も同じ特性を持っている)。
『使者』としての春香は、「裕人に"秘密を守ること"を依頼する存在」また、「裕人"どこか(イベントのある場所)へ自分と一緒に行くこと"を依頼する存在」。美夏は、「裕人に"春香と仲良くなること"を依頼する存在」。由香里とルコは、「裕人に雑用を依頼する存在」(物語を進めるきっかけになったりする)。
『変化するもの』としての美夏は、「裕人を手玉に取る存在」(自分の正体を隠して道案内をしたり、誘惑するふりをしたり)(由香里もここに含めていいかもしれない)
『影』としての佐々岡と(春香ファンクラブメンバー)は、「裕人とは違い、春香のオタク趣味を認めることができない存在」(春香が好きとは知らずにオタク趣味を批判したり)、また、「裕人を迫害する存在」(手紙や言動を通して、裕人に「春香に近づくな」と伝える)(佐々岡は、ファンクラブの総意を擬人化したようなキャラ)。
『トリックスター』としての信長は、「アキバ系でありながらも人に愛される稀有な存在」、また、「裕人の知らない情報をやすやすと入手できる存在」
『移行対象』は、なし。裕人は精神的に成熟した人物であるために移行対象は必要がない。
『恋愛対象』としての春香は、「裕人と秘密を共有する存在」、また、「裕人にとってのあこがれの存在」。
『真の目的』を「春香との恋愛成就」にした理由には、裕人が春香を好きであること、物語の構造が恋愛向きに特化していることなどがあげられる。

こうして見てみると、裕人を主人公として見たとき、この物語は「成長物語」としての要素よりも「恋愛物語」としての要素の方が強いことがわかる(主人公は精神的に成熟した人物であるために"成長"の余地はあまり無く、ヒロインと共に経験を積むことで"恋愛感情"を増幅させて行く)。
春香を主人公とすると、「成長物語」としての側面も見えてくる。しかし、春香が、自分一人では行動しない人物であり、「守られるべき存在」であることを考えると、春香は「主人公」とは言い難いかもしれない(「春香を主人公としたときの登場人物の役割」も考えてはみたが、長くなるので割愛する)。
ここは、「二人揃って主人公」という言い方をするのが適切だろうか?

また、この物語は「第1?4話」に分かれており、話ごとに登場人物の役割が変化している。
全話にほぼ共通している役割を抜き出すとしたら、
1.『主人公』→綾瀬裕人
2.『贈与者』→乃木坂春香
3.『境界守』→乃木坂春香
4.『使者』→乃木坂春香
5.『変化するもの』→乃木坂美夏
7.『トリックスター』→朝倉信長
この6つということになりそうだ。
おそらく、「乃木坂春香の秘密」シリーズにおいては、今後もこの6つの役割は固定で、他キャラが随時なにかしらの役割を受け持つことで物語が構成されていくのだろう。
「使い回しがきく」という視点で考えると、とても優れた構成だ。

物語の構成
この物語を「三幕構成」として考えるならば、
・『セットアップ』は、「裕人が春香の趣味を知る」ところまで。
・『第一ターニングポイント』は、「裕人と春香の二人で夜の図書館に行く」ところ。
・『第二ターニングポイント』は、「春香の秘密が学園の生徒たちにバレそうになる」ところ。
・『クライマックス』は、「裕人が春香を守ると誓う」ところ。
・『レゾリューション』は、「春香が佐々岡に対して訣別の態度を示す」ところ。
・『ミッドポイントシーン』は、「裕人が春香の家に行った」ところ。(美夏との出会いの意味は大きい)
・『サブプロット』は、「夜の図書館での冒険」と「秋葉原でのデート」と「春香の家での勉強会」と「春香の中学時代のトラウマの話」。
となる。
サブプロットの数が多いのは、「雑誌連載の一話完結型作品」として、一話ごとに見どころとなるエピソードを挿入する必要があったからだろう。

今後の展望
この話の続編では、
・春香のオタクライフ
・裕人に降りかかる災難
・他キャラの「依頼」による裕人たちの行動
などが中心に描かれるだろう。
その際の登場人物たちの役割は、上にも書いたとおり、「裕人、春香、美夏、信長の持つ固定の役割プラスα」で構成されるだろう。
また、既存キャラ数がかなり多いので、しばらく新キャラは出ずに、既存キャラの「キャラ付け」が行われるだろう。
ただし、春香の「両親」や「祖父」などは、巻数が進むうちにほぼ確実に登場するであろうし、その場合は『影』として大きな役割を担うことになるだろう。

感想
アニメ化した作品だけあって、安定した面白さがありました。
設定やあらすじだけなら、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』とかなり近い感じなんですが、文章描写の仕方や登場人物の役割や構成なんかを細かく見てみると、いろいろな差異が見つかって、なんというかとても勉強になりました。
あと、「雑誌連載」と「描き下ろし」の差なのか、あるいは発表年度の差なのか、構成としては『乃木坂(略』よりも『俺の妹(略』の方が綺麗でした。
まあ、担当編集者さんがかぶってる(前者は"三木"氏と"和田"氏、後者は"三木"氏と"小原"氏)ことを考えると、「『乃木坂(略』の進化系が『俺の妹(略』」なのかなっていう印象も、あながち間違ってないような気がします。


さて、二冊目の分析が終わりました。
なんか、分析しながら本を読むのってすごく楽しいなあって思いました。
分析の内容も、前回よりは早く書けるようになったと思います。

次は『乃木坂春香の秘密』の作者さんである五十嵐雄策氏の別シリーズ『はにかみトライアングル』の一巻を分析してみます。
本自体は読み終わりましたので、あとは書くだけです。
「同じ作者さんでも、シーリズが違えば使っている物語の構造もこれだけ違うんだなあ」ってことが実感できる一冊でしたので、そこらへんに興味のある人はぜひ、次回の分析もお楽しみに。

……まあ、楽しみにしてる人なんていないでしょうけどね!

前回、「この記事を真面目に読んでくれてる人がいたらweb拍手ボタンを押してくれると嬉しいな♪」ってなことを書きましたが、誰ひとりとして拍手を実行してくれませんでした。

でも負けない!
私は自分が書きたいから、この記事を書き続けるのです。

……さびしくなんか、ないさっ。

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